2015年1月4日日曜日

頭でっかち必読の書


「日本の弓術」オイゲン・ヘリゲル述 柴田治三郎訳

すぐれた職人の感覚的な体の使い方を理解するために参考になるかもと思って読みました。この本は90年ほど前の昭和初期、弓聖阿波研造に認められた弟子でドイツの哲学者であるヘリゲルが、欧州式スポーツ弓術と日本の弓術の根本的な違いを欧州人にも分かるように説明しようとした講演録です。身体で覚えなければいけないことを理屈で理解しようとすることの根本的なあやまちを、弓聖の言葉を通して理屈で説明している所が、頭でっかちの心を打ちます。文体が古くすこし難しい言葉づかいもあるけど1~2時間で奥義をかじった気になるスゴイ本。

2014年11月24日月曜日

「竪」と「縦」の違い

日本一を誇る山中漆器の椀木地は全国的にも珍しいタテ木取り。
木が育つ方向に逆らわずに加工できるため、歪みが出にくいという特徴があります。
そのため椀はもちろんのこと、薄挽きや蓋物などといった精巧な仕上げも得意です。

この字を「木取り」と書く人もいれば「木取り」と書く人もいるし、
どっちが正しいのだろうかってずっと気になってました。
字典を調べてもイマイチよく分からなくて、竪の字を使う人は学があるのをみせよう
と思っているのではないかとさえ思ったりしてました。

ところが最近、「農商務省の報告書(明治19年)には竪木と書いてある。」と聞いたり
埋蔵文化財センターに行った時に竪穴式住居って書いてあるのが気になって
改めて調べ直してみることにした。

竪の字をつかう漢字を調べてみると「竪穴式住居」「竪樋」「竪琴」など。
これらから考えるに、「縦」は2次元での上下方向のことで、
「竪」は3次元の天地方向のことかも!って気がついた。

縦の場合、壁面は天地方向なのに対して、床面は前後方向という風に変わるけど
竪は壁面であろうと床面であろうと常に垂直方向を意味するから
「竪」はより正確な表現方法と言えると分かった。

(例)
竪木取・横木取:使用時の木繊維の方向が垂直・水平。
竪樋・横樋:といの方向が垂直・水平。
竪琴・琴:弦の方向が垂直・水平。

意外と浅い「伝統」の歴史

論文によると古くから受け継がれてきた「伝統」という言葉は
ほぼ無批判に「古い過去から受け継がれてきた」と思わせる
今の意味になったのは明治からだそうです。

それまでは王族の血統をうけつぐという意味だったけど
政府が工芸品に「伝統」っていうレッテルを貼りつけて
表舞台にかつぎあげて国威発揚のために利用したっていう事みたい。
クールジャパンを合言葉に、リーマンショック以降に
国をあげてアニメを持ち上げたのと同じように。
日本人のアイデンティティが揺れ動く開国直後の明治期に
工芸が日本国民の誇りと期待を背負わされることになったみたいです。

     *

「メディア・コンテンツのナショナリティ」下方拓(げほうたく)(平成19年発行)
この論文に興味ある方は世界平和研究所サイトからダウンロードしてください。
宗教団体みたいなサイトの名前ですけど政府系シンクタンクのようです。
内容は国策でジャパニメーションを売り出すことについての考察といった感じ。
この論文は「伝統」について述べた岡本太郎の本(初版昭和29年)も引用しています。
岡本太郎は国家が変に伝統を利用したから、
工芸品が伝統にのっとっているだけで中身の無い物になっていると嘆き
伝統とは自己の表現力を創造的に高めるために利用すべきものだと熱く論じています。
読み物としてはこっちの方が面白いです。



一応断っておきますがこの下方氏は
「伝統」はまやかしだと言っているわけではありません。
「伝統」という言葉を時の権力者だけでなく様々な人たちが
色々な方法でその時々に応じて都合よく国策等に利用している
事を教えてくれます。

「伝統」と銘打って、明治政府が残そうとしたものは
江戸期の職人が残そうと思ったものと同じだったんでしょうか。
もしかするとあの凄い物をつくっていた江戸期の職人は
「伝統」を守るって意識は無かったのかもしれない
って思ってしまいました。

自分が思っていた伝統の何割かは、誰かのもくろみを含んでいたかもしれない。
誰かが利用した伝統っていう言葉にまどわされて、
ほんとうに必要なものを見失っているのかもしれない。 
そんな気になりました。